瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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1b2fd761.jpeg  ルネサンス期の画家(版画家)であるAlbrecht Dürer(アルブレヒト・デューラー、1471~1528年)の作品に「メランコリアⅠ」と題する銅版画(左図参照)がある。この作品はDürerの三大版画のひとつに数えられるほど有名なものだそうである。
 この「メランコリアⅠ」は大変難解な絵で、その内容を理解するには、まず四性論を知らなければならないという。四性論とは、古代ギリシャ医学から始った思想で、それによると、人の体内には、四つの液が流れており、どの液が多いかによって人の性格が決まるというものである。血液が多い多血質の人は活動家、胆汁の多い胆汁質の人はお天気屋、粘液の多い粘液質の人はしつこい、黒胆汁の多い憂鬱質の人は内向的といった具合である。そして、知的で創造的な人間は、必ず憂鬱質で、測量・建築・錬金の神である土星の支配を受けるものとされていた。これだけの予備知識があればこの「メランコリア」つまり「憂鬱」と題するこの絵の内容がだいぶ明確になってくる。
 絵の中央の天使は、コンパスを手に、知的な考え事をしており、周囲には測量・建築・錬金の用具である定規・鋸・鉋・梯子・砂時計・天秤・錬金用の坩堝をのせたコンロなどが散らばっている。これはまさに「憂鬱」の絵だということが判るのである。この「メランコリアⅠ」のⅠは、憂鬱質の第一段階を示すものだといわれているそうだ。
33cce551.jpeg この絵をよくみると、奇妙なものが目に付く。絵の右上部にある魔法陣である。そこだけを取り出して、判りやすく描いてみると左図のようになる。
 魔法陣というのは、n×n のマス目に数を入れて縦、横、斜め、いずれの和も一定になるようにしたものである。nが3なら三方陣、nが4なら四方陣、nが5なら五方陣のように呼ぶ。用いる数は普通は1からnまでの自然数である。「メランコリアⅠ」の魔法陣は四方陣で、和は34になる。つまり、
横の和   16+3+2+13、5+10+11+8、9+6+7+12、4+15+14+Ⅰ
縦の和   16+5+9+4、3+10+8+15、2+11+7+14、13+8+12+Ⅰ
斜めの和  16+10+7+Ⅰ、4+6+11+12  といった具合である。そればかりでなく、この場合は次のような組み合わせでも、やはり和は34になるのである。
中央の縦・横の線で4つの区分に分けた、それぞれの4つの数の和
16+3+10+5、9+6+15+4、7+12+1+4、2+13+8+11
 四隅の数の和 16+13+4+1、 4隅に挟まれた上下の4数の和 3+2+15+14、
4隅に挟まれた左右の4数の和 5+9+8+12、 中央の4数の和 10+11+6+7
 
94e6ec41.jpeg 魔法陣はこうした「神秘的」な性質を持っているため、昔は占星術の対象になったこともある。三方陣は土星、四方陣は木星、五方陣は火星、六方陣は太陽、七方陣は金星、八方陣は水星、九方陣は月の、それぞれのシンボルであるとされた。(左図参照)
 「メランコリア」に四方陣が描かれているのは、余り考え事に熱中しすぎると憂鬱質が嵩じるので、適当に気分転換して、憂鬱質を打ち消すことが必要となる。そのためには木星の助けを借りなくてはならないと言われていたのである。四方陣は木星のシンボルであり、これがなぜこの絵に魔法陣が描かれているかという疑問の答えだという。
 
 「メラコリア」の四方陣で最下段にある赤字で示した1514はこの版画がつくられた年を表わしているのだという。同じ年の5月にDürerの母親が亡くなっているので、これを記念したものであるという説もあるという。そして1列の和が34であるのは、15+14+5(1514年5月)=34 に成るように仕組んだというのであるが、これは少々こじつけのようにも思われる。なんとなれば、四方陣の1列の和(「定和」という)は34と決まっているからである。
 四方陣に用いられている全部の数、1~16までの和は136である。これが4列になっていて、それぞれの各列の和が等しいのだから、この136を4で割ったものが、求める定和になるはずである。したがって四方陣の定和は34ということになる。同様にして各方陣の定和を求める、三方陣は15、五方陣は65、六方陣は111、七方陣は175である。
 一般にⁿ方陣の場合1~n²までの和が n²〈n²+1〉/2 であるから、これをnで割って、定和は
n〈n²+1〉/2 となる。
 
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