瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 東坡志林 巻一 措大喫飯
 有二措大相與言志、一云:「我平生不足惟飯與睡耳、他日得志、當飽喫飯、飯了便睡、睡了又喫飯。」一云:「我則異於是、當喫了又喫、何暇復睡耶!」吾來廬山、聞馬道士嗜睡、於睡中得妙。然吾觀之、終不如彼措大得喫飯三昧也。
〔訳〕《貧書生と飯》二人の貧書生がそれぞれ理想としていることを語り合った。一人が言った。
「私はかねがね不足に思っているのは飯と睡眠だけだ。いつか志を得たならば、腹一杯飯を食って睡り、睡ったらまた飯を食うようにしたいものだ」
 もう一人は言った。
「私はそれとちがう。飯を食った上に又食いたいな。睡るひまなんかありはしない」
 私は廬山に来て、馬(ば)と言う道士がよく睡り、睡りの中に妙境を得ているという話を聞いた。しかし、私から見れば、ついにかの貧書生が飯食い三昧を得ているのには及ばないと思う。
 
東坡志林 巻一 記六一語
 頃歲孫莘老識歐陽文忠公、嘗乘間以文字問之、云:「無它術、唯勤讀書而多為之、自工。世人患作文字少、又嬾讀書、每一篇出、即求過人、如此少有至者。疵病不必待人指擿、多作自能見之。」此公以其嘗試者告人、故尤有味。
〔訳〕《六一居士の語》最近、孫莘老(そんしんろう)が王陽文忠公の面識を得、ある日、公のおひまな時をうかがって文章に上達する法をたずねたところが、公はいわれた。
「特別に術はない。ただ読書に勤め、そして沢山作れば自然に上手になる。世間の人々の欠点は文章を作る量が少なく、しかも読書を怠っていることだ。そのくせ一篇を発表するごとに人を凌いでやろうと考えている。それでは先ず良い文章はできない。文章の欠点は人から指摘されなくても、沢山作れば自然にみえてくるものだ」
 文忠公はご自分の体験をはなされたのであって、だからこそ特に味わいが深いのである。
 
※歴史上はじめて号を用いた人物は、中国北宋の欧陽修とされる。一万巻の蔵書・一千巻の拓本・一張の琴・一局の碁・一壺の酒・一人の居士ということから「六一居士」と号した。それ以降、名だたる文人がこれに倣ったという。名や字と異なり、自身で名付けたり、他人によって名付けられる。現在では使用目的に応じ、筆名、雅号、画号、俳名、芸名、源氏名、狂名、候名などがある。わが号の『拙痴无』などはまず狂名というべきか。
 欧陽 修(おうよう しゅう、歐陽脩/欧阳修、1007~1072年)は、北宋の仁宗~神宗期の政治家、詩人・文学者、歴史学者。字は永叔、醉翁・六一居士と号す。謚号は文忠。唐宋八大家の一人。
 
※孫莘老:孫覚 (1028~1090年)といい、莘老は字。高郵(現江蘇省揚州市近郊)の人で、北宋初期の文学者にして教育家の胡瑗(こえん、993~1059年)に学び、進士に及第。以後さまざまな要職を歴任した。王安石とも文学的才能を認め合って親交があったが、その政治的意見は異なり、とくに「青苗法」には激しく反対したという。また孫莘老は黄庭堅の「外舅」つまりは岳父である。
「孫莘老寄墨四首」は、蘇軾が孫覚(そん・かく)から墨を送られた喜びをうたった詩である。その一首目を記しておく。
 
徂徠无老松 徂徠(そらい)に老松(ろうしょう)无(な)く、
易水无良工 易水(えきすい)に良工无(な)し
珍材取楽浪 珍材を楽浪(らくろう)に取るも、
妙手惟潘翁 妙手は惟(た)だ潘翁(はんおう)
魚胞熟万杵 魚胞(ぎょほう)は万杵(まんしょう)に熟し、
犀角盤双龍 犀角(さいかく)は双龍を盤(ばん)す
墨成不敢用 墨(すみ)成(な)って敢えて用いず、
進入蓬莱宮 進んで入る蓬莱宮(ほうらいきゅう)
蓬莱春昼永 蓬莱(ほうらい)の春昼(しゅんちゅう)永(なが)く、
玉殿明房槞 玉殿(ぎょくでん)明房(めいぼう)の槞(ろう)
金箋洒飛白 金箋(きんせん)は飛白(ひはく)を洒(ふる)い、
瑞霧萦長虹 瑞霧(ずいむ)に長虹の萦(めぐ)る
遥憐醉常侍 遥(はるか)に憐(あわれ)む醉常侍(すいじょうじ)、
一笑開天容 一笑(いっしょう)して天容を開く
d8de86e2.jpeg〔訳〕魯の国に良質な松烟の材料となる老松は尽きてしまい、
   易水の優れた墨工もいなくなってしまった
   楽浪(高麗)からもたらされた珍しい材料(高麗墨)があるが、
   それを上等な墨に仕上げることが出来るのは潘谷だけである
   魚胞から取った膠を用い、杵で万回もついて成熟させ、
   硬い犀角に彫った双龍がとぐろを巻いている
   墨が出来ても敢えて使う事はせず、
   そのまま蓬莱宮へ納められるのだ
   宮廷の春の昼中はとても永(なが)く、
   金殿玉楼の部屋の窓には明るい光が差し込んでいる
   金箔を張った紙に飛白の書を揮毫すれば、
   神々しい霧が立ち込めて長い虹がかかるようだ
   〔都を追われて〕飲んだくれている、
   〔かつてのあなたの〕近臣を憐れと思し召し、一笑に付してお許しください
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プロフィール
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目高 拙痴无
年齢:
92
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1932/02/04
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くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
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