瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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749年、越中(富山)で中堅役人の情事によるスキャンダルが発生しました。
 当時の国守は大伴家持です。彼の下に都から伴ってきた尾張少咋(おわり おくい)という優秀な書記がいました。
 
 その少咋、単身赴任の淋しさに耐え切れず、現地の遊女、左夫流(さぶる)という女性に夢中になり、どうやら彼女の家から役所に出勤していて里人達の物笑いになっていたのです。
里人(さとびと)の 見る目恥づかし 左夫流子(さぶるこ)
     さどはす君が 宮出(みやで)後姿(しりぶり)

                巻184108 大伴家持
(この私までが恥ずかしいよ。左夫流子に血迷っていそいそと出勤していく後姿を里人達が笑っているのをみると)
※左夫流子(さぶるこ、生没年不詳)
 奈良時代の遊女。越中(富山県)の人。都に妻をのこして越中に赴任してきた史生尾張少咋(おわりの-おくい)の愛人です。「万葉集」に越中守(かみ)大伴家持が天平感宝(てんぴょうかんぽう)元年(749)によんだ、少咋の浮気をさとす長歌とその反歌が残されています。
 当時、現地妻といえども重婚禁止で、部下の所行を案じた家持は七出(しちしゅつ )三不去(さんふきょ)の法律を引き合いに出して長々とお説教(万葉集18-4106の長歌)をします。
 家持はこのように尾張少咋に教え、さらに「都で待つ妻とは(今は苦しくともいつかは花の咲く時もある)とお互いに助け合ってやっと史生(ししょう=書記)という地位にまで出世したのではないか。
 今こそ妻と共に生活を楽しむ時ではないか」と諭します。
あおによし 奈良にある妹が 高々(たかたか)
      待つらむ心 然(しか)にはあらじか

                 巻184107 家持
(遠い奈良にいる奥さんが首を長くしてしきりに待っているだろうにそのいじらしい妻の心が哀れではないか)
(くれない)は うつろふものぞ 橡(つるはみ)
      なれにし衣(きぬ)に なほ及()かめやも

  昨日のブログで記載した 巻184109 家持 の反歌
 「紅は左夫流子」「橡は団栗(どんぐり)の皮で染めた薄墨色で妻を表す」
(紅は美しいけれどもすぐ色あせるもの。橡染めは地味だが着慣れたほうが良いのに決まっている。年若い恋人より糟糠の妻だよ)

 ところが事態は急展開となります。
 何と! 都の本妻が何の前触れもなく駅馬に乗り、里中が鳴り響く勢いで左夫流子が奥様気取りで振舞っているところへ乗り込み大騒ぎとなります。
左夫流児が 齊(いつ)しき殿(との)に 鈴懸けぬ
       駅馬(はゆま)下れり 里もとどろに

                 巻184110 家持
 「齊しき殿」は左夫流子が本妻のようにかしずいた館、「鈴懸けぬ」は公用の使いは鈴をつけた駅馬を使っていましたがここは私用なので鈴のない駅馬を借りてきたもの
(左夫流子が大切にお仕えしていた御殿に駅鈴もつけない早馬が下ってきた。里中鳴り響くばかりに息せき切って)
 
 この勝負は本妻の勝ち これにて一件落着です。めでたし、めでたし。


 

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目高 拙痴无
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1932/02/04
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 sechin@nethome.ne.jp です。


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