瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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c139076a.jpeg  リンドパピルスはスコットランドの弁護士で、鼓物研究家であるAlexander Henry Rhind 〔アレックス ヘンリー リンド、1833~1863年〕がエジプトで購入したパピルスで、紀元前17世紀古代エジプトのHyksos(ヒクソス)王の頃の数学の本である。この中で以下のように書かれている部分がある。
 「七軒の家で、七匹ずつネコを飼っている。ネコは七匹ずつネズミをとる。ネズミはムギの穂を七本ずつ食べる。ムギの穂からは七ますずつのムギがとれる。これらの数を合わせるといくつになるか?」
 数字のパズルとしては、これが世界最古のものだろう。答えは図のように19607となる。
 
 しかし、驚いたことにそれから約3000年たった1202年に、Leonardo Fibonacci〔レオナルド・フィボナッチ、1170?~1250年頃、中世で最も才能があったと評価されるイタリアの数学者〕が著した『算盤の書』に、これとよく似た問題が出てくるのである。曰く、「七人の老婦人が、ローマに旅行した。婦人はおのおの七ひきのラバを持ち、ラバはそれぞれ七個の袋を運ぶ。それぞれの袋には七個のパンがあり、そのパンには七挺のナイフがあり、それぞれのナイフには七個のさやがある。ここに数え上げたすべての名称の和はいくらか?」  答 137256 〔小倉金之助訳『カジョリ初等数学史』より〕
 
319692ec.jpeg だが、現在まで伝承されているMother Goose〔マザー・グース、イギリスの伝承童謡〕の中にも、次に示すような同系のものがあるのはもっと興味のあるところである。右の図はこの童謡を描いたアイルランド製の絵はがきである。曰く、「セント・アイブスへの道すがら、七人の妻を連れた男に出会った。/どの女も袋を七つ持ち、どの袋にもネコが七ひき、どのネコにも小ネコが七ひき。小ネコとネコと袋と女、セント・アイブスに向かうのは、あわせていくらか答えてごらん。」
 ただし、これはなぞなぞであって、パズルではないことに注意していただきたい。答は一人である。つまり、セント・アイブスへ向かっているのは私だけで、「七人の妻を連れた男」はセント・アイブスからやって来て、私とすれ違ったのである。
 
fd2cfa2e.jpeg なお、中国や日本にも類似のものがあるが、西洋のもののキー・ナンバーが7であるのに、こちらの方はなぜか9である。日本の問題は次のようなもので、塵劫記にあり「からす算」と呼ばれている。曰く、
 「からす九百九十九わある時、九百九十九浦にて、一わのからす九百九十九こゑづゝなく時、此こゑ合何ほどぞと云。合九億九千七百令令二千九百九十九こゑ。法に、九百九十九に九百九十九をもって二度掛くれば高しれ申候也。」(大矢真一校注・岩波文庫版。底本は寛永二十年(1643年)版)
 要約すると「九九九羽のからすが、九九九箇所の浜で、九九九声ずつ鳴いたとすると、全部で何声鳴いたことになるだろうか。」 答は 99700299声である。
 
※からす算のネタ元について:古代中国の『孫子算経』(中国南北朝期、3~4世紀頃の作、著者不明、兵法で有名な孫子とは別人の)に次のような問題がある。
「今有出門望見九隄。隄有九木、木有九枝、枝有九巢、巢有九禽、禽有九雛、雛有九毛、毛有九色。問各幾何。」
〔今、門を出て9つの堤を望み見る。堤に9つの木があり、木に9つの枝があり、枝に9つの巣があり、巣に9つの禽(トリ)があり、禽に9つの雛があり、雛に9つの毛があり、毛に9つの色がある。それぞれいくつか。〕
「答曰:木八十一。枝七百二十九。巢六千五百六十一。禽五萬九千四十九。雛五十三萬一千四百四十一。毛四百七十八萬二千九百六十九。色四千三百四萬六千七百二十一。」
「術曰:置九隄、以九乘之、得木之數。又以九乘之、得枝之數。又以九乘之、得巢之數。又以九乘之、得禽之數。又以九乘之、得雛之數。又以九乘之、得毛之敷。又以九乘之、得色之數」

 この問題が千年以上たって、『算法統宗』(1593年刊行、塵劫記の模範となった本)の次のような問題に形を変えて出ているという。
 「諸葛孔明には8人の将がいて、将ごとに8箇の営に分かれ、営ごとに8つの陣があり、陣ごとに8人の先鋒、先鋒ごとに8つの旗頭、旗頭ごとに8隊、隊ごとに8箇の甲、甲頭ごとに8箇の兵。答えは、19173385人。」 数値は、原文のまま標記したものであるが、この計算は次のように考えることがわかる。
 将は8人、営は8×8=64、陣は8×64=512、先鋒は8×512=4096人、旗頭は8×4096=32768人、隊は8×32798=262144人、甲頭は8×262144=2097152人、兵は8×262144=16777216人。このうち、営と陣が人ではなく、残りが人であるから、合計は8+4096+32768+262144+2097152+16777216=19173384人。これでは1人足りなくなる。しかし、諸葛孔明を足せばちょうどになるのである。
 いずれにしても、これらをネタにして、塵劫記の烏算が出来上がったものと思われる。
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