瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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今日は変身譚ではありませんが、昨日のブログの最後に触れた、Sophoklēs(ソポクレス)作の『オイディプス王』を取り上げます。


 


Oidipūs(オイディプース)がThēbai(テーバイ、古代ギリシアの都市国家)の王になって以来、不作と疫病が続きました。Creon(クレオーン、テーバイの摂政)がDelphoi(デルポイ、古代ギリシアのポーキス地方にあった都市国家。パルナッソス山のふもとにあるこの地は、古代ギリシア世界においては世界のへそと信じられており、ポイボス・アポローンを祀る神殿で下される「デルポイの神託」で知られていました)に神託を求めました所、不作と疫病はLāïos(ラーイオス、オイディブースの実父)殺害の穢れの為なので殺害者を捕らえ、テーバイから追放せよという神託を得ました。


そこでオイディプースは「ラーイオス殺害者を捕まえよ、殺害者を庇う者があればその者も処罰する」とテーバイ人達に布告を出します。さらに、オイディプースはクレオーンの薦めにより、テーバイに住む高名な予言者で盲(めしい)のTeiresiās(テイレシアース)にラーイオスの殺害者を尋ねる事にしました。


自らの子に手を引かれオイディプースの前に現われたテイレシアースは、卜占により真実を知るのですが、その真実をオイディプースに伝えるのは忍びなく思い、予言を隠そうとします。しかし、オイディプースがテイレシアースを詰(なじ)ったため、テイレシアースは怒りに任せて、オイディプースに、不作と疫病の原因はテーバイ王その人にあると言います。これを聞いたオイディプースは激怒し、クレオーンがテイレシアースと共謀してテイレシアースに偽の予言をさせているのだと誤解します。この為オイディプースはクレオーンを呼び出して詰問するのですが、身に覚えのないクレオーンは反駁するのみでした。そこにIokastē(イオカステー、オイディプースの母にして妻)が現われ、オイディプースとクレオーンとの罵り合いを仲裁するのです。


イオカステーは、テイレシアースの予言を気に病むオイディプースを安心させるため、オイディプースに、予言など当てにならないのだと言い、その例としてラーイオスとイオカステーの間に産まれた子供の話をします。ラーイオスとイオカステーはもし子供を作ればその子供がラーイオスを殺すとの神託をその昔受けますが、ラーイオスはPhocis(ポーキス、古代ギリシアの一地方)の三叉路で何者かに殺されてしまい、この予言は当たらなかったとオイディプースに伝えるのでした。


しかしながらこの話を聞いたオイディプースはかえって不安に陥った。何となればオイディプースは、過去にポーキスの三叉路で人を殺した事があるからです。不安に陥ったオイディプースをイオカステーがたしなめ、ラーイオスが殺害された際殺害を報せた生き残りの従者を呼んで真実を確かめる事を忠言します。忠言に従ったオイディプースはその従者を求めますが、従者はオイディプースが王位についた頃にテーバイから遠く離れた田舎に移り住んでいました。予言が実現された事を知った従者は、恐ろしさのあまりテーバイの見えぬところへと何も言わずに逃げていたのです。


オイディプースがラーイオス殺害者と従者とを追っていると、彼のもとにKorinthos(コリントス、ペロポネソス地方にある商業都市。紀元前9世紀、ドーリア人によって建設され、Aphrodītē〈アプロディーテー〉を守護神としその祭祀で知られます)からの使者が訪れます。使者はコリントス王Polybos(ポリュボス、オイディプースの養父で、名付け親ともいわれる)が死んだ為コリントス王の座はオイディプースのものになったと伝え、オイディプスにコリントスへの帰国を促すのでした。


しかし、自分の両親を殺すであろうという神託を受けていたオイディプースは帰国を断ります。何となればオイディプースは、ポリュボスとMeropē(メロペー、ポリュボスの妻)を実の父母と信じていたからです。この為使者は、オイディプースに、ポリュボスとメロペーは実の父母ではないのだと伝えます。これを聞いたイオカステーは真実を知り、自殺するためその場を離れるのでした。しかし未だ真実を悟らないオイディプースはイオカステーが自殺しようとしている事に気づかず、女ゆえの気の弱さから話を聞く勇気が失せて部屋に戻ったのだと思い違いをしたのです。


まもなく、かつてラーイオスが殺害されたことを報せた生き残りの従者がオイディプースのもとに連れて来られました。この従者はオイディプースをKitheronas(キタイローン)の山中に捨てる事を命じられた従者と同一人物でした。


従者はオイディプースに全てを伝えるのでした。真実を知ったオイディプースは、イオカステーを探すべくイオカステーの部屋を訪れました。するとイオカステーはすでに縊(くび)れていました。オイディプースは縄をほどき下ろしますが、時すでに遅く、彼女は死んでいました。


罪悪感に苛(さいな)まれたオイディプースは、狂乱のうちに我と我が目をイオカステーのつけていたブローチで刺し、自ら盲(めしい)になります。彼自身の言によれば、もし目が見えていたなら冥府を訪れたときどのような顔をして父と母を見ればよいのか判らない、そう感じたというのでした。そして自身をテーバイから追放するようクレオーンに頼み、自ら乞食になるのでした。


 


男子が父親を殺し、母親と性的関係を持つというオイディプス王の悲劇は、Sigmund Freud(ジークムント・フロイト)が提唱した「Oedipus complex(エディプス・コンプレックス)」の語源にもなりました。

Teiresiās(テイレシアース)は盲目の予言者として知られるが、盲目となった理由は諸説あります。一説には、女神Athēnā〈アテーナー〉が沐浴している姿を見てしまい、アテーナーによって盲目とされますが、これを不憫に思ったAphrodītē(アプロディーテー)が(または、Chariklō〈カリクロー〉から息子の目を元に戻すよう訴えられたアテーナー自身が)予言の力を与えたという。


Chariklō〈カリクロー〉:ギリシアの戦士Spartoi(スパルトイ)のEueres(エウエーレース)の妻になり、テイレシアースを産みました。


また一説には、テイレシアースがKyllēnē〈キュレーネー〉山中で交尾している蛇を打ったところ、テイレシアースは女性になってしまったといいます。9年間(7年ともいう)女性として暮らした後、再び交尾している蛇を見つけ、これを打つと男性に戻ったということです。


 


Johann Ulrich Kraus(ヨハン・ウルリッヒ・クラウス、16551719年):ドイツのAugsburg(アウスブルク)のイラストレイター、彫版家で出版企業者でもありました。


 


あるときZeus(ゼウス)とHērā(ヘーラー)が、男女の性感の差について論争します。ゼウスは女がより快感が大きいと言い、ヘーラーは男の方が大きいとして言い争いとなりましたので、テイレシアースの意見を求めることになりました。テイレシアースは「男を1とすれば、女はその10倍快感が大きい」と答えたのです。ヘーラーは怒ってテイレシアースの目を見えなくしてしまいます。ゼウスはその代償に、テイレシアースに予言の力と長寿を与えたといいます。


テイレーシアスは予言者となり、さまざまな場面で出てきます。Narkissos(ナルキッソス)を占って「己を知らないままでいれば、長生きできるであろう」と予言し、恐ろしい予言は16年後に水鏡に映った自分を見た時に的中してしまう話は先だって取り上げたばかりです。そして、もっとも有名なのが、Sophoklēs(ソポクレス、紀元前496年頃~紀元前406年頃のアテナイの悲劇作家、古代ギリシア三大悲劇詩人の一人)の『Oidipūs(オイディプス王)』です。

Marsyās(マルシュアース)はaulos(アウロス)というdouble reed(ダブルリード、二本管の木管楽器、例えば、oboe〈オーボエ〉、cor anglais〈コールアングレ〉など)の名手でした。その楽器はAthēnā(アテーナー)が作ったものでしたが、吹くときに頬が膨れるのを他の神が囃し立てたせいで拾った者に災いが降りかかるように呪いをかけて地面に投げ捨てたのを、マルシュアースが拾ったのでした。


アウロスを得たマルシュアースはこの楽器に熟達し、Apollōn(アポローン)のkithara(キタラー、竪琴の一種)にも勝るとの声望を得るに至ります。これがアポローンの耳に入って怒りを買い、マルシュアースはアポローンと音楽合戦をする羽目に追い込まれてしまいました。


アポローンとマルシュアースの音楽合戦では、勝者は敗者の側に何をしても良いという約束でした。アポローンに主宰されるMusa(ムーサ、文芸を司る女神)が審判だったために、勝敗は自ずと定まり、マルシュアースは負けてしまいます。神に挑戦するとは思い上がった太い奴だということで、Phrygia(プリュギア、古代アナトリア〈現在のトルコ〉)の洞窟で生きたまま皮剥ぎの目に遭いました(傲慢の罪・hubris〈ヒューブリス〉)。その時の血は河となりそれがマルシュアース河であるといわれています。


hubris〈ヒューブリス〉:宗教や大自然という人間を超える大きなものに対する畏怖の念をなくし、人間が神の領域に手をつけることや神々に対する傲慢不遜な態度をとることを言います。


 


この音楽合戦にはいくつかのversio〈ヴァージョン、〔原型・原物に対する〕異形,変形,改作,改造〉があります。中には、マルシュアースが勝利者として去ろうとした所、アポローンは竪琴を上下反対に調弦し、同じように演奏してみせましたが、これは笛では真似しようがなかったというものがあります。また中には一旦はマルシュアースが優勢でしたが、アポローンが弾き語りを始めた所で勝敗がついた(これも笛吹きには真似できない)というものもあります。マルシュアースは楽器の演奏合戦だったはずで歌まで評価に加えるのは反則だと抗議しましたが、アポローンは笛を吹奏するのも歌と似たようなものではないかと反論したといいます。ムーサはアポローンの主張をもっともだとして、アポローンに軍配をあげたのでした。


後年のヨーロッパの芸術作品では、マルシュアースはしばしば古代ギリシアのアウロスではなく、flute〈フルート〉、panpipes〈パンパイプ〉、さらにはbagpipe〈バグパイプ〉を持っています。同様にアポローンが持っている楽器は古代ギリシアのcithara〈キタラー〉、lyre〈リュラー〉に類する竪琴だったり、harp〈ハープ〉だったり(Viole〈ヴィオル〉だったり他の絃楽器だったりします。


この音楽合戦に用いられた楽器の性格は、アウロスが熱狂的なDionȳsos(ディオニューソス)的性格の楽器、キタラーが理性的なアポローン的性格の楽器とされておりまして、またマルシュアースもそのひとりであるSatyros(サテュロス)という精霊は、ディオニューソスの眷属であることを考慮しますと、ニーチェが論じたように、人性のアポローン的側面とディオニューソス的側面の永遠の相剋を象徴しているかに見えるのです。


※ アポローン的側面とディオニューソス的側面:感性と理性、感情と理屈、直感(直観)と論理という世界に対して、芸術表現においては、「アポロ」と「ディオニュソス」の概念はひとつの重要なテーマであると考えられます。簡単にいえば、美と秩序と制御の「アポロの世界」と陶酔と快感と激しさの「ディオニュソスの世界」ということになりましょうか?

Ovidius(オウィディウス)の『変身物語』によれば、Kainis(カイニス)はThessalía(テッサリアー、ギリシャ中部の地域名)で最も美しい乙女だったので、多くの求婚者がいましたが、どんな男が現れてもカイニスは夫に選びませんでした。あるときカイニスが海岸を歩いていると、海神Poseidōn(ポセイドーン)が現れ、彼女を強姦してしまいます。ポセイドーンが償いとして願いを何でもかなえると言ったところ、カイニスはこんな酷いことが2度とないように男に変えてほしいと願ったのでした。そこでポセイドーンはカイニスを不死身の身体をもつ男に変えてしまったのです。


別の伝説によると、ポセイドーンは強姦ではなく、カイニスから合意を得ることができたとされます。カイニスはポセイドーンの求愛に応えるかわりに、決して傷つかない不死身の男に変えてくれることを願ったといいます。ポセイドーンはこの願いを聞き入れ、カイニスを不死身の男に変えたというのです。


 


Johann Ulrich Kraus (ヨハン・ウルリッヒ・クラウス、16551719):ドイツのAugsburg(アウスブルク)のイラストレイター、彫版家で出版企業者でもありました。


男になったカイニスはKaineus(カイネウス、Kainisの男性形)と名前を改めます。そしてLapithēs(ラピテース)族の王となり、Kentauros(ケンタウロス)族と幾度となく戦いました。ところがカイネウスは神々に対してだんだん冒涜的になってきました。Acusilaus(アクーシラーオス、紀元前6世紀後半に活躍した古代ギリシアの神話学者。生没年不明)によると街の広場に1本の槍を立て、その槍を新たな神として神々の列に加えることを人々に命じたといいます。この行為は神々の反発を招き、特にZeus(ゼウス)はカイネウスの行為に怖れをなしました。そこでゼウスは大いにケンタウロス族をけしかけました。ケンタウロス族はカイネウスを大地の中に打ち込み、さらにその上に岩を置いて死に至らしめるのでした。


このカイネウスの死を、『変身物語』はLapithēs(ラピテース)族の王Peirithoos(ペイリトオス、英雄Thēseus〈テーセウス〉の盟友)とHippodameia(ヒッポダメイア)の結婚式の最中のことだったとしています。この2人の結婚式にはテーセウスなど多くの英雄や、他のラピテース族、そしてケンタウロス族が招待された。当然、カイネウスの姿もその中にあった。ところがケンタウロス族は酒で酔っ払い、欲情して花嫁やその他の女性たちを奪おうとしたため、会場は大混乱となったのです。カイネウスは他の英雄たちとともにケンタウロス族と戦いましたが、ケンタウロスたちはカイネウスに罵声を浴びせ、「女が男の振りをしている」、「武器など持たず糸巻棒でも握っていろ」などと侮辱するのでした。そしてカイネウスの上に大木を幾重にも積み上げて殺したといいます。その場にいた預言者Mopsus(モプソス、最も古い彼の名の記述は、オリンピアで見つかったおよそ紀元前600575年頃の戦士の盾の紐に書かれていたもので、戦士の一人だった)の証言によると、大木の山の中から金色の鳥が飛び出して天に昇り、モプソスはそれをカイネウスの魂だと信じたとされています。


カイネウスは地面に埋め込まれて窒息死したのだとか、自殺したのだという説もあります。また、混乱が収まった後カイネウスを埋葬しようとすると、カイネウスの身体は元の女に戻っていたという説もあります。

Aráchnē(アラクネー)は、Lydia(リューディア、現在のトルコ)のリュディア地方を中心に栄えた国家)のColophon(コロポーン、都市)で染織業を営んでいたIdomōn(イドモーン)の娘でした。


Ovidiusオウィディウス)の『変身物語』によればアラクネーは優れた織り手で、その技術は機織りを司るAthēnā(アテーナー)をも凌ぐと豪語するほどでした。これを耳にしたアテーナーは怒りを覚えますが、彼女を諭す為に老婆の姿を借りて神々の怒りを買うことのないように忠告を与えました。しかし、アラクネーはそれを聞き入れるどころか、神々との勝負を望んだ為、女神は正体を表してアラクネーと織物勝負をすることになりました。


アテーナーは自身がPoseidōn(ポセイドーン)との勝負に勝ちアテーナイの守護神に選ばれた物語をtapestry(タペストリー、壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物の一種)に織り込みました。アラクネーはアテーナーの父Zeus(ゼウス)のLēdā(レーダー)、Eurōpē(エウローペー)、Danaē(ダナエー)らとの浮気を主題にその不実さを嘲(あざけ)ったタペストリーを織り上げました。


アラクネーの腕は非の打ち所のない優れたもので、アテーナーでさえアラクネーの実力を認める程でありました。しかし、アテーナーはそのタペストリーの出来栄えに激怒し、最終的にアラクネーの織機と不敬なタペストリーを破壊してアラクネーの頭を打ち据えるのでした。これによりアラクネーは己の愚行を認識し、恥ずかしさに押しつぶされ逃げだして自縊死を遂げます。


アテーナーは彼女を哀れんだのか、それとも怒りが収まらず死すら許さずに呪おうとしたのか、トリカブトの汁を撒いて彼女を蜘蛛に転生させました。


 


なお、Arachnē(アラクネー)という彼女の名は、ギリシア神話の多くの登場人物と同様、普通名詞を人格化したもので、古代ギリシア語「arachnē(s)」は「蜘蛛」「蜘蛛の巣」を意味する単語でした。 現在、分類学で「クモ綱」を Arachnida(アラクニダ) と呼んだり、クモ恐怖症を英語で arachnophobia(アラクノフォビア)などと言うのは、この語を語根に用いたものです。


Dante(ダンテ)の『神曲』「煉獄篇」では、煉獄山の第一層にて「傲慢」の大罪を戒める例の一つとして、すでに下半身が蜘蛛に変じたアラクネーを写した姿が山肌に彫刻されています(原文の「Aragne(アラーニェ)」の名で邦訳されていることもあります)。

Orion(オーリーオーン)は、海の神Poseidōn(ポセイドーン)とMīnōs(ミーノース)王の娘Euryalē(エウリュアレー、ギリシア神話に登場する女神で、「広く彷徨う」の意味を持つとされる)との間に生まれたといわれています。また、オーリーオーンの母についてはAmazōn(アマゾーン、ギリシア神話に登場する女性だけの部族)の女王であるとする説もあり、大地母神Gaia(ガイア)を母とするTītān(ティーターン)であったとする説もあります。背の高い偉丈夫で、稀に見る美貌の持ち主でもあったとされています。父親であるポセイドーンから海を歩く力を与えられ、海でも川でも陸と同じように歩く事ができました。


逞しく凛々しい美青年であったオーリーオーンではありましたが、早熟で好色でもありました。非常な豪腕の持ち主で、太い棍棒を使って野山の獣を狩る、ギリシア一番の猟師でもあったのです。


狩猟の女神であるArtemis(アルテミス)とギリシア随一の狩人であるオーリーオーンは次第に仲良くなっていき、神々の間でも二人は、やがて結婚するだろうと噂されるようになっていきます。しかし、アルテミスの双子の兄であるApollōn(アポローン)は、乱暴なオーリーオーンが嫌いだった事と純潔を司る処女神である彼女に恋愛が許されない事から、二人の関係を快く思いませんでした。だが、アルテミスはアポローンの思惑を気にしませんでした。


そこでアポローンは奸計を以てアルテミスを騙す挙に出るのです。アポローンはアルテミスの弓の腕をわざと馬鹿にし、海に入って頭部だけ水面に出していたオーリーオーンを指さしして「あれを射ることができるか」と挑発しました。オーリーオーンは、アポローンの罠で遠くにいたため、アルテミスはそれがオーリーオーンとは気づきませんでした。


アルテミスは矢を放ち、オーリーオーンは矢に射られて死んでしまいます。アルテミス女神がオーリーオーンの死を知ったのは、翌日にオーリーオーンの遺骸が浜辺に打ち上げられてからでした。アルテミスは後に神となった医師Asklēpios(アスクレーピオス、20081231日のブログ参照)を訪ね、オーリーオーンの復活を依頼しましたが、冥府の王Hādēs(ハーデース)がそれに異を唱え、許しませんでした。


http://sechin.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%94%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87


アルテミスは父であり神々の長であるZeus(ゼウス)に訴えるが、ゼウスも死者の復活を認めることはできず、代わりに、オーリーオーンを天にあげて星座とすることでアルテミスを慰めたのです。なお、さそり座は、アポローンが謀ってオーリーオーンを襲わせ、彼が海に入る原因となったサソリであるとされました。そのためオリオン座は今も、さそり座が昇ってくるとそれから逃げて西に沈んでいくといいます。


 


Daniel Seiter (ダニエル ザイター 16471705):ウィーンの〜生まれの画家バロック訓練を受け、イタリアで働いていました。


Diāna(ディアナ): ローマ神話に登場する、狩猟、貞節と月の女神。Juppite〈ユーピテル、ローマ神話の主神〉とLatona〈ラートーナ〉の娘で、アポローンの妹とする説があります。新月の銀の弓を手にする処女の姿が特徴です。ギリシア神話のアルテミスとみられます。
 

Apollōn(アポローン)の双子の妹といわれるArtemis(アルテミス)に纏わる変身譚もあります。中でもKallistō(カリストー)が熊にされた変身譚はとくに有名で、2010120日のブログで取り上げたこともあります。


http://sechin.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E7%86%8A%E3%81%AB%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E6%AF%8D%E5%AD%90


今日はもう一つアルテミスに纏わる変身譚を取り上げます。


Aktaiōn(アクタイオーン)の父は太陽神アポローンの子Aristaios(アリスタイオス)、母はThēbai(テーバイ、古代ギリシアの都市国家)の王Cadmus(カドモス、テーバイの創建者)の娘Autonoē(アウトノエー)とされます。


Kentauros(ケンタウロス、ギリシア神話に登場する半人半獣の種族で、馬の首から上が人間の上半身に置き換わったような姿をしている)のCheirōn(ケイローン、ケンタウロス族の賢者)に育てられて、狩猟の術を授けられたといいます。一説には狩猟を教わったのは実父アポローンからであったともいわれています。


50頭の猟犬を連れてKithairon山(キタイローン山、ギリシャ中央にある全長16kmの山麓)で狩猟中、女神アルテミスの入浴中の裸体を誤って目撃してしまったために、報(むく)いとしてかの女神アルテミスによって鹿へと姿を変えられ、連れてきていた自分の猟犬に食い殺されてしまいます。一説にはわざと鹿皮をアクタイオーンに被せて猟犬に襲わせたともいわれています。鹿に変えられた理由の異説として、アクタイオーンが自らの狩猟の腕を誇って女神を軽んじたからだとも、叔母のSemelē(セメレー、Zeus〈ゼウス〉の子Dionȳsos〈ディオニューソス〉の母)と結婚しようとしてゼウスと争ったためだとする説もあります。また、後に猟犬たちは鹿の正体を知って大いに悲しんだが、それを知ったケイローンがアクタイオーンそっくりの銅像を作って慰めたといいます。

Klymene(クリュメネー)はエチオピアの王Merops(メロプス)の妃ともいわれますが、太陽神Apollōn(アポローン)と契ってPhaethon(パエトーン)のほかHeliades(ヘーリアデス)と呼ばれるおよそ5人の娘を儲けました。後世の諸家例えばOvidiusオウィディウス)は、Apollōn(アポローン)がパエトーンの父であるとして、その転身譚で記述しています。


太陽神アポローンの息子であるパエトーンは、友人のEpaphos(エパポス)達からアポローンの息子であることを強く疑われたため、自分が太陽神の息子であることを証明しようと東の果ての宮殿に赴き、父に願って太陽の戦車を操縦しました。しかし、御すのが難しい太陽の戦車はたちまち暴走してしまい、地上のあちこちに大火災を発生させてしまいます。このときリビュア(後のMaghreb〈マグリブ〉)は干上がってサハラ砂漠砂漠となり、エチオピア人の肌は焼かれて黒くなってしまったといいます。世界の川はことごとく干上がり、Ōkeanos(オーケアノス)もむき出しとなり、Neptunus(ネプトゥーヌス ローマ神話における海の神)の眷属であるイルカやアザラシは屍を晒しました。地を火の海とされた豊穣の女神Ceres(ケレース)は最高神Jūpite(ユーピテル、ギリシア神話のZeusにあたる)に助けを求めました。ユーピテルは暴走する太陽を止めるためにやむなく雷霆を投じてパエトーンを撃ち殺してしまいます。


 


パエトーンの死体はEridanos(エーリダノス)川〔ギリシア神話中の伝説的な川。ローマではポー川をこの川になぞらえています。)に落ちました。パエトーンの姉妹のヘーリアデスたちは悲嘆のあまりポプラの木に変身したといいます。母のクリュメネーも悲嘆に絶えず、その樹木をかきむしったところ、垂れた樹液は琥珀(こはく)となったといいます(一説にクリュメネーの流した涙が琥珀になったともいわれています)。


トレミーの48星座の内の1つであるエリダヌス座はこの物語に取材しているといわれています。


Peter Paul Rubens(ピーテル・パウル・ルーベンス、15771640年)はバロック期のフランドルの画家、外交官。祭壇画、肖像画、風景画、神話画や寓意画も含む歴史画など、様々なジャンルの絵画作品を残しました。『パエトンの墜落』は16041605年頃の作品でナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.)が所蔵しています。


 


アポロ―ンに纏わる変身物語はダプネーが月桂樹になった話(20101月3日、2011年4月11日のブログ)、キュパリッソスが糸杉になった話(2010年1月4日のブログ)、ヒュアキントスがヒヤシンスになった話(2010年1月5日のブログ)など、このブログで取り上げてきました。


http://sechin.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E3%83%80%E3%83%97%E3%83%8D%E3%83%BC


http://sechin.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%91%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9


http://sechin.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E3%83%92%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B9


 

Ovidius(オウィディウス)の『変身物語』に収録されて転身譚として知られているものとして、ギリシア神話の中のNarcissusナルキッソス)はとても著名ですが、その話についてはいくつかの説があります。


盲目の予言者Tiresiasテイレシアース、ギリシア神話に登場する Thēbaiテーバイ、ギリシアの都市国家〉の預言者)は占って「己を知らないままでいれば、長生きできるであろう」と予言しました。


若さと美しさを兼ね備えていた彼は、ある時Aphrodite(アプロディーテー)の贈り物を侮辱してしまいます。アプロディーテーは怒り、ナルキッソスを愛される相手に所有させることを拒むようにします。彼は女性からだけでなく男性からも愛されており、彼に恋していた者の一人であるAmeiniasアメイニアス)という男は、彼を手に入れられないことに絶望し、自殺します。


※ アプロディーテーは美と愛の愛と美の女神です。美しさと人を愛する喜びを与えたはずなのに、自分の美だけを誇り、他者への愛を馬鹿にするナルキッソスに彼女は腹を立てたものだと思われます。


森の妖精(Nymphニュンペー〉)のひとりEchoエーコー)が彼に恋をしましたが、エーコーはZeus(ゼウス)がHera(ヘーラー)の監視から逃れるのを歌とおしゃべり(別説ではおせじと噂)で助けたためにヘーラーの怒りをかい、自分では口がきけず、他人の言葉を繰り返すことのみを許されていました。エーコーはナルキッソスの言葉を繰り返す以外、何もできなかったので、ナルキッソスは「退屈だ」としてエーコーを見捨ててしまいます。エーコーは悲しみのあまり姿を失い、ただ声だけが残って木霊(こだま)になったといいます。これを見た神に対する侮辱を罰する神Nemesis(ネメシス、有翼の女神)は、他人を愛せないナルキッソスが、ただ自分だけしか愛せないようにしてしまいました。


 


ネメシスは無情なナルキッソスをMusa(ムーサ)の山にある泉におびき寄せます。不吉な予言に近づいているとも知らないナルキッソスが水を飲もうと、水面を見ると、中に美しい少年がいました。もちろんそれはナルキッソス本人だったのです。ナルキッソスはひと目で恋に落ちました。そしてそのまま水の中の美少年から離れることができなくなり、やせ細って死んてしまいます。また、水面に写った自分に口付けをしようとしてそのまま落ちて水死したという話もあります。ナルキッソスが死んだあとそこには水仙の花が咲いていました。この伝承から、スイセンのことを欧米ではNarcissus(ナルシス)と呼びました。また、narcist(ナルシスト 自己陶酔者)・Narcissism(ナルシシズム 自己を愛し、自己を性的な対象とみなす状態)いう言葉の語源でもあります。

昔、Babylon(バビロン)の街にPyramus(ピュラモス)という美青年とThisbe(ティズベー)という美少女がいました。二人は同じ家屋の壁一枚で仕切られた隣同士に住んでいて、いつのまにか互いに深く恋い慕うようになっていました。


しかし、二人の親同士は互いに折り合いが悪く、どちらもこの恋には反対していて、二人が顔を合わせることすら許しませんでした。そのため二人には、厚い壁に一か所だけ空いた小さな隙間を通して毎夜密かに愛をささやく他にできることがありませんでしたが、思慕の情はますます募るばかりでした。


そして二人は、この恋が許されるものでないなら、いっそのこと二人で駆け落ちして、どこか遠い所で一緒に暮らしていこう、と決意することになりました。


そこでひとまず、バビロンの街のはずれにある『Ninos(ニノス、《Nineveh〈ニネヴェ、アッシリアの都市〉の伝説的建設者》の墓所』で落ち合おうと約束したのでした。


さて、約束の晩、ティズベーは親たちが寝静まるのを待ってそっと家から抜け出し、待ち合わせ場所に向かいましたが、着いてみるとピュラモスはまだ来ていませんでした。小さな泉のほとりにある、白い実をつける桑の木の下でしばらく待っていますと、突然、闇の中から猛獣のうなり声が聞こえてきました。ティズベーは慌ててその場から逃げ出しましたが、その時に頭にかぶっていたベールを落としてしまいました。


姿を現したのは、口元を血で染めた一頭のライオン――。どこかで家畜を殺して食べ終えた直後らしく、喉を潤すために泉へ来たようです。ライオンは泉の水で人心地ついた後、落ちていた布切れを見つけてしばらくじゃれついていましたが、やがて飽きたのかどこかへ去って行きました。


その後、ピュラモスが遅れて待ち合わせ場所にやって来ると、そこにティズベーの姿は無く、あるのはライオンの足跡と血で汚れ引き裂かれたベールでした。彼は恋人ティズベーがライオンに食べられたものと勘違いし、絶望のあまり身に携えていた短剣で喉元を突いて(あるいは地面に立てた剣の刃の上に身を投げ出して)自殺してしまいました。


その直後、もう大丈夫だろうと思って元の場所に戻って来たティズベーは、自分のベールを握りしめて息絶えている、ピュラモスの変わり果てた姿を見つけるのでした。彼女は暫し瞑目した後、まだ温もりが残る刃を同じように自らの胸に当て、愛しい人の亡骸と折り重なるようにしてその後を追いました。


翌日になって、事の次第を全て知った両家の親たちは深く嘆き悲しみ、両家の争いが原因で悲惨な死を迎えた二人への償いとして、二人を同じ墓に埋めてやりました。


それ以来、この悲恋の結末を見届けた桑の木は、飛び散り流れ出した二人の血で染まったような赤黒い実をつけるようになり、恋人たちの深い悲しみと永遠の愛を今に伝えているといいます。故に桑の木は「ピュラモスの木」とも呼ばれているのです。
 


 この話はギリシア神話およびローマ神話の一つで、Ovidiusオウィディウス)の『変身物語』に収録されています。また、Shakespeareシェイクスピア、15641616年)の戯曲『ロミオとジュリエット』のモチーフになった物語としても知られています。
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目高 拙痴无
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