瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
東坡志林 巻一 遊沙湖
黃州東南三十里為沙湖、亦曰螺師店、予買田其間。因往相田得疾、聞麻橋人龐安常善醫而聾、遂往求療。安常雖聾、而穎悟絕人、以紙畫字、書不數字、輒深了人意。餘戲之曰:「餘以手為口、君以眼為耳、皆一時異人也。」疾愈、與之同遊清泉寺。寺在蘄水郭門外二里許、有王逸少洗筆泉、水極甘、下臨蘭溪、溪水西流。餘作歌云:「山下蘭芽短浸溪、鬆間沙路淨無泥、蕭蕭暮雨子規啼。誰道人生無再少? 君看流水尚能西、休將白髮唱黃雞。」是日劇飲而歸。
〔訳〕《沙湖に遊ぶ》黄州の東南三十里に沙湖というところがある。螺師店(らしてん)ともいう。私はその地に田を買い、その田を見に行って病気にかかった。麻橋に龐安常(ほうあんじょう)という人がいて、聾(つんぼ)だか上手な医者だと聞いたので、治療を求めていった。常安は聾だけれども非常に頭がよくて、紙に字を書いて、幾字も書かぬ内にすぐ人の言おうとすることを察するのであった。私はふざけて言った。
「私は手を口とするし、君は目を耳とする。どちらも変わった人間だね」
病気が治ると、彼と一緒に清泉寺に遊んだ。その寺は蘄水県〔きすいけん、今の湖北省キ(氵+希)水県。黄州の東百里たらずのところにある〕の郭門外二里ほどのところにあり、王逸少〔303~361年、晋の書家王羲之〕の洗筆泉(せんひつせん)がある。水は極めて甘い。下は蘭渓に臨み、その水は西に流れている。私は次のような詩を作った。
山下 蘭芽短く 渓に浸(ひた)り
松間の沙路 淨(きよ)くして泥無し
蕭々(しょうしょう)たる暮雨 子規啼く
誰か道う 人生再び少(わか)きこと無しと
君看(み)よ 流水なお能く西す
白髪を将(もっ)て黄雞を唱うこと休れ
この日は大いに飲んで帰った。
※漢の『楽府詩集』の「長歌行」に「百川東到海、何時復西歸。少壯不努力、老大徒傷悲。〔すべての川の東して海に注げば、再び西に帰ることはなし、若い時代(とき)に励んでおかねば、歳とって悲しみをかこつことになろう〕」とあるに拠り、しかし、この蘭渓の水は西に流れているではないかという意であり、さらになにも白髪頭になったからといって嘆くことは無いといっているのである。
東坡志林 巻三 參寥求醫
龐安常為醫、不志於利、得善書古畫、喜輒不自勝。九江胡道士、頗得其術、與予用藥、無以酬之、為作行草數紙而已、且告之曰、「此安常故事、不可廢也。」參寥子病、求醫於胡、自度無錢、且不善書畫、求予甚急。予戲之曰、「子粲(三祖僧璨大師)、可(無可)、皎(皎然)、徹(靈徹)之徒、何不下轉語作兩首詩乎?龐、胡二君與吾輩遊、不日索我於枯魚之肆矣。」
〔訳〕《參寥子が医者を求める》龐安は常に医療を施すにあたり、その志は利益を得ることには無く、善い書画を手に得たいと望み、(逸品に出会うと)喜んで欲しいとおもう気持ちを抑えられなかった。九江湖の道士は其の術に大変優れていて、私に用いる藥を与えてくれ、その報酬を求めず、(報酬の代わりに)数枚の紙に行草の書を書かせたのみだった。そうしてこう告げた「この龐安にとっては、いつもしてきたことです、やめられません。」參寥子が病気になり、医者を胡に求めたが、どうやっても金錢が無く、また書画も自分ではうまく書けずに、たいへん急いで私に(書いてくれと)求めてきた。私は戲れてこう言った「子粲よ、明晰で、すべてに堪能なお方よ、どうして言葉を操って詩文を作ってあげないのかい?」龐、胡の二人と吾輩は、遊んで意地悪をした。彼は莊子のように「(今水をくれないのなら)魚の乾物屋の店で私をお探しください」とは言わなかった。
※參寥子〔さんりょうし、生没年不詳〕:釈道潜(しゃくどうせん)は、北宋後期の著名な詩僧。生没年不詳。おおよそ宋の神宗・哲宗・徽宗の時代に生きていた。本名は曇潜、参寥子は号、俗姓は何。於潜(浙江省臨安の西)の人。蘇軾、秦観らと唱和の詩がある。詩風は清新、風雅で、成就は大変高い。
臨平道中 釈道潜 (北宋)
風蒲猟猟弄軽柔 蒲を風(ふ)くこと猟猟として 軽柔を弄(もてあそ)び
欲立蜻蜓不自由 立たんと欲する蜻蜓(せいてい) 自由ならず
五月臨平山下路 五月 臨平山下の路(みち)
藕花無数満汀洲 藕花 無数 汀洲に満つ
〔訳〕 《臨平山の道中にて》
風に吹かれている蒲は、
さらさらと軽く柔らかな葉をそよがせている。
トンボが葉にとまろうとしているが、
揺れているので思うように行かない。
真夏、五月の臨平山のふもとの道では、
ハスの花が数知れず、水際一面に咲いている。
黃州東南三十里為沙湖、亦曰螺師店、予買田其間。因往相田得疾、聞麻橋人龐安常善醫而聾、遂往求療。安常雖聾、而穎悟絕人、以紙畫字、書不數字、輒深了人意。餘戲之曰:「餘以手為口、君以眼為耳、皆一時異人也。」疾愈、與之同遊清泉寺。寺在蘄水郭門外二里許、有王逸少洗筆泉、水極甘、下臨蘭溪、溪水西流。餘作歌云:「山下蘭芽短浸溪、鬆間沙路淨無泥、蕭蕭暮雨子規啼。誰道人生無再少? 君看流水尚能西、休將白髮唱黃雞。」是日劇飲而歸。
〔訳〕《沙湖に遊ぶ》黄州の東南三十里に沙湖というところがある。螺師店(らしてん)ともいう。私はその地に田を買い、その田を見に行って病気にかかった。麻橋に龐安常(ほうあんじょう)という人がいて、聾(つんぼ)だか上手な医者だと聞いたので、治療を求めていった。常安は聾だけれども非常に頭がよくて、紙に字を書いて、幾字も書かぬ内にすぐ人の言おうとすることを察するのであった。私はふざけて言った。
「私は手を口とするし、君は目を耳とする。どちらも変わった人間だね」
病気が治ると、彼と一緒に清泉寺に遊んだ。その寺は蘄水県〔きすいけん、今の湖北省キ(氵+希)水県。黄州の東百里たらずのところにある〕の郭門外二里ほどのところにあり、王逸少〔303~361年、晋の書家王羲之〕の洗筆泉(せんひつせん)がある。水は極めて甘い。下は蘭渓に臨み、その水は西に流れている。私は次のような詩を作った。
山下 蘭芽短く 渓に浸(ひた)り
松間の沙路 淨(きよ)くして泥無し
蕭々(しょうしょう)たる暮雨 子規啼く
誰か道う 人生再び少(わか)きこと無しと
君看(み)よ 流水なお能く西す
白髪を将(もっ)て黄雞を唱うこと休れ
この日は大いに飲んで帰った。
※漢の『楽府詩集』の「長歌行」に「百川東到海、何時復西歸。少壯不努力、老大徒傷悲。〔すべての川の東して海に注げば、再び西に帰ることはなし、若い時代(とき)に励んでおかねば、歳とって悲しみをかこつことになろう〕」とあるに拠り、しかし、この蘭渓の水は西に流れているではないかという意であり、さらになにも白髪頭になったからといって嘆くことは無いといっているのである。
東坡志林 巻三 參寥求醫
龐安常為醫、不志於利、得善書古畫、喜輒不自勝。九江胡道士、頗得其術、與予用藥、無以酬之、為作行草數紙而已、且告之曰、「此安常故事、不可廢也。」參寥子病、求醫於胡、自度無錢、且不善書畫、求予甚急。予戲之曰、「子粲(三祖僧璨大師)、可(無可)、皎(皎然)、徹(靈徹)之徒、何不下轉語作兩首詩乎?龐、胡二君與吾輩遊、不日索我於枯魚之肆矣。」
〔訳〕《參寥子が医者を求める》龐安は常に医療を施すにあたり、その志は利益を得ることには無く、善い書画を手に得たいと望み、(逸品に出会うと)喜んで欲しいとおもう気持ちを抑えられなかった。九江湖の道士は其の術に大変優れていて、私に用いる藥を与えてくれ、その報酬を求めず、(報酬の代わりに)数枚の紙に行草の書を書かせたのみだった。そうしてこう告げた「この龐安にとっては、いつもしてきたことです、やめられません。」參寥子が病気になり、医者を胡に求めたが、どうやっても金錢が無く、また書画も自分ではうまく書けずに、たいへん急いで私に(書いてくれと)求めてきた。私は戲れてこう言った「子粲よ、明晰で、すべてに堪能なお方よ、どうして言葉を操って詩文を作ってあげないのかい?」龐、胡の二人と吾輩は、遊んで意地悪をした。彼は莊子のように「(今水をくれないのなら)魚の乾物屋の店で私をお探しください」とは言わなかった。
※參寥子〔さんりょうし、生没年不詳〕:釈道潜(しゃくどうせん)は、北宋後期の著名な詩僧。生没年不詳。おおよそ宋の神宗・哲宗・徽宗の時代に生きていた。本名は曇潜、参寥子は号、俗姓は何。於潜(浙江省臨安の西)の人。蘇軾、秦観らと唱和の詩がある。詩風は清新、風雅で、成就は大変高い。
臨平道中 釈道潜 (北宋)
風蒲猟猟弄軽柔 蒲を風(ふ)くこと猟猟として 軽柔を弄(もてあそ)び
欲立蜻蜓不自由 立たんと欲する蜻蜓(せいてい) 自由ならず
五月臨平山下路 五月 臨平山下の路(みち)
藕花無数満汀洲 藕花 無数 汀洲に満つ
〔訳〕 《臨平山の道中にて》
風に吹かれている蒲は、
さらさらと軽く柔らかな葉をそよがせている。
トンボが葉にとまろうとしているが、
揺れているので思うように行かない。
真夏、五月の臨平山のふもとの道では、
ハスの花が数知れず、水際一面に咲いている。
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目高 拙痴无
年齢:
92
誕生日:
1932/02/04
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くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
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