瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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夢渓筆談巻10 鶴のたより
 林逋隱居杭州孤山、常畜兩鶴、縱之則飛入雲霄、盤旋久之、復入籠中。逋常泛小艇、遊西湖諸寺。有客至逋所居、則一童子出應門、延客坐、為開籠縱鶴。良久、逋必棹小船而歸。蓋嘗以鶴飛為驗也。逋高逸倨傲、多所學、唯不能棋。常謂人曰:“逋世間事皆能之、唯不能擔糞與著棋。”
〔訳〕林逋は杭州の孤算山に隠居し、いつも二羽の鶴を飼っていて、空に放ち雲の中までぐるぐると長いこと飛び回らせては籠に入れるのであった。逋はまた小舟を浮かべて西湖の寺巡りをするのが常であった。客が逋の所へにやって来ると、童子が対応に出て来て、客を召じ入れ、籠を開いて鶴を放つ。と、やがて逋が必ず小舟に掉さして帰ってくる。鶴を飛ばして来客のしるしにしていたからである。
 彼は趣味が高く我を通す性格であったから、いろいろな学芸を身につけていたのに碁だけはやらず、いつも人に「わしは世間のことはみな出来るが、ただ肥え担ぎと碁だけは出来ん」と言っていた。
bb7472d6.JPG※林逋〔967~1028年〕は、銭塘〔淅江省・杭州〕の人。独身で杭州西湖北岸に近い小島である孤山に隠居所を作り一生を終えた。梅300本を植え、鶴を飼う風流三昧の暮らしをしたが、詩人としてもすぐれ、人柄も清らかだったので、世人は「梅を妻とし鶴を子としている」といい尊敬した。和靖先生というのは仁宗が彼に賜った諡である。
 

山園小梅 林逋     山園の小梅
衆芳揺落独嬋妍  衆芳 揺落して 独(ひと)り嬋妍たり
占尽風情向小園  小園にて 風情を占め尽くす
疎影横斜水清浅  疎影 横斜して 水 清浅
暗香浮動月黄昏  暗香 浮動して 月 黄昏
霜禽欲下先偸眼  霜禽 下らんと欲して 先ず眼を偸む
粉蝶如知合断魂  粉蝶 如(も)し知らば 合(まさ)に魂を断つべし
幸有微吟可相狎  幸に微吟の相い狎(な)るべき有り
不須檀板共金樽  須(もち)いず 檀板と金樽とを
fdc92357.JPG〔訳〕いろいろな花が散ってしまった後で、梅だけがあでやかに咲き誇り、
ささやかな庭の風情を独り占めしている。
咲き初めて葉もまばらな枝の影を、清く浅い水の上に横に斜めに落とし、
月もおぼろな黄昏時になると、香りがどことも知れず、ほのかにただよう。
霜夜の小鳥が降り立とうとして、まずそっと流し目を向ける。
白い蝶がもしこの花のことを知れば、きっと魂を奪われてうっとりするに違いない。
幸いに、私の小声の詩吟を梅はかねがね好いてくれているから、
いまさら歌舞音曲も宴会もいりはしない。
 
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