瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 夢渓筆談 巻11より 銭塘江の築堤
 錢塘江、錢氏時為石堤、堤外又植大木十余行、謂之“滉柱”。寶元、康定間、人有獻議取滉柱、可得良材數十萬。杭帥以為然。既而舊木出水、皆朽敗不可用。而滉柱一空、石堤為洪濤所激、歳歳摧決。蓋昔人埋柱以折其怒勢、不與水爭力、故江濤不能為患。杜偉長為轉運使、人有獻說、自浙江稅場以東、移退數裏為月堤、以避怒水。眾水工皆以為便、獨一老水工以為不然、密諭其黨日:“移堤則歳無水患、若曹何所衣食?”眾人樂其利、乃從而和之。偉長不悟其計、費以鉅萬、而江堤之害、仍歳有之。近年乃講月堤之利、濤害稍稀。然猶不若滉柱之利、然所費至多、不復可為。
da58e484.JPG〔訳〕銭塘江は、銭氏の時に石で堤を築き、堤の外に大きな木材を十余列も打ち込んで、これを「滉柱(こうちゅう)」と呼んだ。宝元・康定年間〔いずれも宋、仁宗の年号。1038~40年〕に、滉柱を取れば良材数十万が得られるだろうと建議する者がいた。杭州の長官はこの建議を受け入れた。ところが古材木だから水中から抜き出してみると、みな腐っていて役に立たない。しかも滉柱がなくなってしまったら、石の堤は激しい大波に洗われて、年ごとに崩れていった。思うに昔の人は柱を打ち込んで怒涛の勢いを弱めて水勢が直接ぶつからぬようにしたから、銭塘江の大波も災いを及ぼさなかったのである。
 杜偉長が転運使をしていた時、淅江の税関辺りから堤を数里退後させ、堰月形の堤を築いて激しい水勢を避けてはどうかと建議した人があった。堤防工事の職人達もみななるほどと言ったが、ただ一老職人だけは首を振らず、そっと仲間達に「堤を移したら毎年水害が起こらなくなる。お前たち何で食って行くんだ」とそそのかした。みなも堤防修理で得をしたほうが良いと、老職人の説に一同加担した。偉長はそんないきさつに気がつかなかったので、巨万の工費を費やしながら江堤の損害は依然として毎年起こった。
 近年になってやっと偃月形の堤の利点を取り上げるようになり、大浪による害も少なくなったが、やはり何と言っても滉柱の良さには及ばない。しかし経費が大変なので二度と滉柱を打ち込むわけにはいかないのである。
 
c7ebdeaa.JPG※五代の時、淅江は呉越国(907~978年)の銭氏が領有していた。呉越国は唐末の動乱期に自衛団の杭州八都を背景として銭鏐(せんりゅう)が江南の主要地を支配して建国。土木工事・荒田開発に努力し、租税は重かったが戦乱がなかったので経済・文化にすぐれていた。貿易にもつとめ、契丹・高麗とも通交し、日本にもその貿易船が来航していると言う。
※滉柱とは深い水中にささっている柱のこと。銭塘江岸は土質が悪く波が荒いので、築堤には古来苦労したらしく、石を積んだり、蛇籠を用いたり、巨材を打ち込んだり、さまざまの工夫がなされた。
※宋の仁宗の頃の名臣杜杞〔とき、1005~50年〕は字を偉長といい、広西の蛮夷を征討したこと、諸伝を博覧し、陰陽術数の学に通じていたことで有名。宋代には各路〔州・郡の上にある地方行政単位〕に徴税や地方財政を統轄し中央への穀物産物輸送を主管する役所である転運司が置かれ、その長官を転運使といって、非常に多くの権限を握っていた。
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