瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 オランダ語からの外来語で、飲食物名にはどんなものがあるだろうか。
 アップラ(aardapple)=じゃがいも、アラキ(arak)=強い蒸留酒、ウェイン(wijn)=葡萄酒、カーズ(kaas)=チーズ、ソップ(sop)=スープ、ボートル(voter) =バター、メルキ(melk)=ミルク、クッキー(koekje)=小さなもの、コック(kok)=料理人、コーヒー(koffie)=珈琲、ビール(bier)=麦酒、ドロップ(drop)=型を打ち抜いた飴菓子、ブロード(brood)=麺麭(バン)、ポンス(pons)=橙の絞り汁、シロップ(siroop)=濃厚な砂糖液、ヘット(vet)=牛脂、ゼネーフル(genever)=ジン、セーデル(cider)=林檎酒 〔以上18語〕 などについて調べてみた。
 ジャガイモに就いては、英語ではハイチ起源のpotatoという言葉を、スペイン語経由で使っており、これは後年日本語にもポテトとしてはいっている。フランス語ではこれをpomme de terre(ポム・ドゥ・テール)と訳し、オランダ語でもこれに倣ってaardapple(アーダポロ)と呼んで入る。どちらも「大地のリンゴ」という意味である。Earth-appleである。茨城その他の方言にみられる「アップラいも」というのはこのオランダ語aardappleの後半を取り入れて、それに「いも」を付けたものである。
 アラキは、江戸時代、オランダ人がジャワより伝えた蒸留酒。ヤシの実の汁や糖蜜・米で造った焼酎(しようちゆう)に、丁子・肉桂などの香料を加えたもの。アラキ酒。アラック。「阿剌吉」とも書く。/ウェインは、江戸時代、葡萄酒をさしていった言葉。英語のワインに当たる。*紅毛訳問答〔1750年〕に(酒をウェインと申候」とある。日本人になじまれるようになったが、やがて英語のwineを借り入れたワインに取って代わられた。
 カーズもまた、幕末から明治にかけて使われたが、やがて英語のcheeseを取り入れたチーズに席をうばわれた。/ソップも英語のsoupを借り入れたスープのために、ボートルも英語のbutterからきたバターのために、さらにメルキも英語のmilkを受け入れたミルクのために、それぞれ追われて消えていった。
 クッキーという言葉は英語のcake「ケーキ」に当たるオランダ語のkoekに指小辞の-jeを添えた言葉で「小さなケーキ」という意味である。英語には17世紀初めにアメリカに移住したオランダ人を通して借り入れ、cookie,cookyとして使っている。発音の上から英語のcook「料理人」を連想しがちだが、それとは全く無関係である。英語のcookに当たるオランダ語はkokであり、これはまた別にコックとして日本語に入っている。クッキーもコックも直接オランダ語から入ったと考えられるが、クッキーは英語の助けを借りて一般化した。
 コーヒーはアラビア語でコーヒーを意味するカフワ (qahwa) が転訛したものであるとも、エチオピアにあったコーヒーの産地カッファ (Kaffa) がアラビア語に取り入れられたものともいわれる。日本語の「コーヒー」は、江戸時代にオランダからもたらされた際の、オランダ語: koffie (コーフィー)に由来する。中国語においても、訳語に関して19世紀に試行錯誤があり、現在はこの日本人宇田川榕菴(うだがわようあん、1798~1846年、津山藩医で日本の蘭学者)による当て字を借用している。ただし、漢字では王偏を口偏に変え「咖啡」(kāfēi)と表記されている。/日本において、ビールは1613年(慶長18年)に長崎県平戸市に渡り、1724年(享保9年)にオランダの商船使節団が江戸に入府した際には、8代将軍・徳川吉宗に献上されたという。日本では川本幸民(1810~1871年、幕末・明治維新期の蘭学者)が1853年にビール製造を試みたのを皮切りに、多くの醸造所が誕生した。本格的に普及したのは明治時代だが、江戸時代初期には徳川幕府の幕僚達がその存在を認知していたのである。/コーヒーやビールはのちに英語のcoffeeとか、ドイツ語のBierに接しても、これによって特に変える必要はなかったのでそのまま残った。飴菓子のドロップも同様である。/砂糖80%と水飴20%を140~150℃で煮詰め、クエン酸や着色料、香料を加えて生地を作る。生地を冷却し、まだ柔らかいうちに金属製の型(モールド)で整形して(もしくは打ち抜いて)作る。オランダの菓子ドロップが語源とされている。
 麺麭(パン)を意味するブロードは、いくぶん使い出されはしたが、ポルトガル語から入っていたパンの牙城を抜くことはできなかった。/ポン酢の「ポン」に意味があるわけではなく、「ポンカン」の「ポン」とも語源は異なる。オランダ語で柑橘類の果汁を意味する「pons(ポンス)」からで、「ポンス」が変化し「ス」に「酢」が当てられ「ポン酢」となった。オランダ語の「ポンス」は、ヒンディー語で5つを意味する「panc」に由来する。近世より、「ポンス」は5種類のものを混ぜ合わせたという意味から、ブランデーやラム酒にレモン汁や砂糖などを加えて作った飲み物を意味するようになった。この飲み物がレモン汁に関係することから、ポン酢は柑橘類の果汁を意味するようになったという。
 シロップとは、濃厚な砂糖液の総称。香味をつけたものと,つけないものとがあり,フルーツシロップ,グレナデンシロップ,メープルシロップなどは前者に,ガムシロップ,シュガーシロップなどは後者に属する。フルーツシロップはレモン,イチゴ,メロンなどの香料を加えて着色したもので,かき氷などに用いる。グレナデンシロップはザクロの香味をつけた鮮紅色のもので,おもにカクテルに使う。メープルシロップは北アメリカ特産のカエデ糖を原料とするもので独特の風味があり,ホットケーキなどに用いる。/ヘット(ドイツ語: Fett、オランダ語: vet、英語: tallow)は、牛の脂を精製した食用油脂であり、牛脂(ぎゅうし)とも呼ばれる。語源となったとされるドイツ語のFettおよびオランダ語のvetは、本来は獣脂一般を指す。
980751bd.jpeg ジンは、1660年オランダのライデン大学医学部教授フランシスクス・シルピウスによって開発された。シルピウスは熱病の特効薬を作ろうとして、利尿効果のあるジュニパーベリーをアルコールに浸漬して蒸留した。医学者シルピウスの意図とは別に、この薬用酒はむしろ爽やかなアルコール性飲料として評判になり、ジュニパーベリー(杜松《ねず》の実)を意味するフランス語Gehever(ジュニエーブル)から“Geneva(ジュネヴァ、杜松《ねず》)”と呼ばれてオランダを代表する酒になった。ジュネヴァはオランダ商人の手で世界各地に広がっていったが、特にイギリスでは英語風に“Gin(ジン)”と呼ばれて大流行した。1689年にオランダから英国王に迎えられたウイリアム3世の影響もあって、爆発的な人気を得た。イギリスでは当初、飲みやすくするため砂糖で甘味付けされた、“Old Tom Gin(オールド・トム・ジン)”が好まれていたが、19世紀後半になると連続式蒸留機によるスッキリとした風味の“ Dry Gin(ドライ・ジン)”が登場してジュネヴァを圧倒し世界的にもドライジンが主流になった。
 セデール「cider」は「りんご酒」の外来語であるが、後に英語からこれとは別にサイダー(cider)というのを借り入れている。しかもそれは、どう勘違いしたものか、原語の「りんご酒」とは打って変わって「清涼飲料水」として取り入れた。このオランダ語と英語のciderはどちらもフランス語から借り入れたものであるという。日本語はご丁寧にもフランス語のciderをも「シードル」として、今度は間違いなく「りんご酒」の意で取り入れている。セーデルは今は使われていないが、なかなかややこしい。
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