塾友N君3兄弟のご母堂が逝去され、昨夕は通夜、本日は葬儀に出席した。92歳―― 平均寿命を10歳以上上回るから天命を全うされたと言うべきだろう。兼愛塾の塾友は5人の兄弟のうち3名であるが、アルバイトとはいえ兄上・姉上とも何がしかのご縁がある。したがって、ご母堂とも既になくなられた父上同様旧知の間柄といえる。いやはや近い間柄なれば、吾が身もやがては同じような日を迎えると思い、余計に諸行無常をを感じる。
涅槃経にある詩句にその修行者を雪山童子と呼ぶところから「雪山偈」といわれる詩句がある。この雪山偈を今様歌に作ったのが、一般には弘法大師の作といわれている七五調の『いろは歌』である。
拙痴无爺が国民学校6年のときに習った国語の教科書には「修行者と羅刹」という題でこの涅槃経の物語が載せられていた。
「色はにほへど散りぬるを わがよたれぞ常ならむ。」/どこからか聞こえて来る尊いことば。美しい声。ところは雪山(せっせん)の山中である。長い間の難行苦行に、身も心も疲れきつた一人の修行者が、ふとこのことばに耳を傾けた。/いひ知れぬ喜びが、かれの胸にわきあがつて来た。病人が良薬を得、渇者が清冷な水を得たのにもまして、大きな喜びであつた。
「今のは仏の御声ではなかつたらうか。」と、かれは考へた。しかし、「花は咲いてもたちまち散り、人は生まれてもやがて死ぬ。無常は生ある者の免れない運命である。」という今のことばだけでは、まだ十分でない。/もしあれが仏のみことばであれば、そのあとに何か続くことばがなくてはならない。かれには、さう思はれた。/修行者は、座を立つてあたりを見まはしたが、仏の御姿も人影もない。ただ、ふとそば近く、恐しい悪魔の姿をした羅刹のゐるのに気がついた。/「この羅刹の声であつたろうか。」/さう思ひながら、修行者は、じつとそのものすごい形相をみつめた。
「まさか、この無知非道な羅刹のことばとは思へない。」と、一度は否定してみたが、 「いやいや、かれとても、昔の御仏に教へを聞かなかつたとは限らない。よし、相手は羅刹にもせよ、悪魔にもせよ、仏のみことばとあれば聞かなければならない。」/修行者はかう考へて、静に羅刹に問ひかけた。
「いつたいおまへは、だれに今のことばを教へられたのか。思ふに、仏のみことばであらう。
それも前半分で、まだあとの半分があるに違ひない。前半分を聞いてさへ、私は喜びにたへないが、どうか残りを聞かせて、私に悟りを開かせてくれ。」/すると、羅刹はとぼけたように、「わしは、何も知りませんよ、行者さん。わしは腹がへつてをります。あんまりへつたので、つい、うは言が出たかも知れないが、わしには何も覚えがないのです。」と答へた。/修行者は、いつそう謙遜な心でいつた。
「私はおまへの弟子にならう。終生の弟子にならう。どうか、残りを教へていただきたい。」/羅刹は首を振つた。/「だめだ、行者さん。おまへは自分のことばつかり考へて、人の腹のへつてゐることを考へてくれない。」/「いつたい、おまへは何をたべるのか。」/「びつくりしちやいけませんよ。わしのたべ物といふのはね、行者さん、人間の生肉、それから飲み物といふのが、人間の生き血さ。」
しかし、修行者は少しも驚かなかつた。/「よろしい。あのことばの残りを聞かう。さうしたら、私のからだをおまへにやつてもよい。」/「えつ。たつた二文句ですよ。/二文句と、行者さんのからだと、とりかへつこしてもよいといふのですか。」/行者は、どこまでも真剣であつた。
「どうせ死ぬべきこのからだを捨てて、永久の命を得ようといふのだ。何でこの身が惜しからう。」/かういひながら、かれはその身に着けてゐる鹿の皮を取つて、それを地上に敷いた。/「さあ、これへおすわりください。つつしんで仏のみことばを承りませう。」/羅刹は座に着いておもむろに口を開いた。あの恐しい形相から、どうしてこんな声が出るのかと思はれるほど美しい声である。
「有為の奥山今日越えて、浅き夢見じ酔ひもせず。」と歌ふやうにいひ終ると、「たつたこれだけですがね、行者さん。お約束だから、そろそろごちそうになりませうかな。」といつて、ぎよろりと目を光らした。
行者は、うつとりとしてこのことばを聞き、それをくり返し口に唱へた。すると、「生死を超越してしまへば、もう浅はかな夢も迷ひもない。そこにほんたうの悟りの境地がある。」といふ深い意味が、かれにはつきりと浮んだ。心は喜びでいつぱいになつた。/この喜びをあまねく世に分つて、人間を救はなければならないと、かれは思つた。/かれは、あたりの石といはず、木の幹といはず、今のことばを書きつけた。
『色はにほへど散りぬるを、わがよたれぞ常ならむ。有為の奥山今日越えて、浅き夢見じ酔ひもせず。』
書き終ると、彼は手近にある木に登つた。そのてつぺんから身を投じて、いまや羅刹の餌食にならうといふのである。
木は、枝や葉を震はせながら、修行者の心に感動するかのように見えた。修行者は、「一言半句の教へのために、この身を捨てるわれを見よ。」と高らかにいつて、ひらりと樹上から飛んだ。/とたんに、たえなる楽の音が起つて、朗かに天上に響き渡つた。と見れば、あの恐しい羅刹は、たちまち端厳な帝釈天の姿となつて、修行者を空中にささげ、さうしてうやうやしく地上に安置した。
もろもろの尊者、多くの天人たちが現れて、修行者の足もとにひれ伏しながら、心から礼拝した。 (『初等科国語』八)
頂き、ありがとうございました。
併せて塾友会より供花を頂き、また沢山の仲間にご
会葬頂き、本来であれば直接御礼を申し上げねばな
ならないところ、この場を借りて厚く御礼を申し上
げます。
母と地元で暮らし、友人・ご近所と親しくお付き合い
をさせて頂いておりましたので、末弟ながら私が喪主
を務めさせて頂きました。
母を看取った後、めまぐるしく毎日を過ごし、やっと
ひと段落つきました。先のブログで「般若心経」につ
いて記されておりましたが、母の霊前で、毎日次男と
経を読んでおります。
遺影の前で、母を亡くした事が、今更ながら実感とし
て感じられるようになってまいりました。
また落ち着きましたら、立ち寄らせて下さい。
皆様、本当にありがとうございました。
sechin@nethome.ne.jp です。
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