瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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松を詠める歌17
19-4169:霍公鳥来鳴く五月に咲きにほふ花橘の.......(長歌)
標題:為家婦贈在京尊母所誂作謌一首并短謌
標訓:家婦(かふ)の京(みやこ)に在(いま)す尊母に贈らむが為に、(あとら)へて作れる謌一首并せて短謌
原文:霍公鳥 来喧五月尓 咲尓保布 花橘乃 香吉 於夜能御言 朝暮尓 不聞日麻祢久 安麻射可流 夷尓之居者 安之比奇乃 山乃多乎里尓 立雲乎 余曽能未見都追 嘆蘇良 夜須家久奈久尓 念蘇良 苦伎毛能乎 奈呉乃海部之 潜取云 真珠乃 見我保之御面 多太向 将見時麻泥波 松栢乃 佐賀延伊麻佐祢 尊安我吉美 (御面謂之美於毛和)
              万葉集 巻19-4169
            作者:大伴家持
よみ:霍公鳥(ほととぎす) 来鳴く五月(さつき)に 咲きにほふ 花橘の かぐはしき 親の御言(みこと) 朝暮(あさよひ)に 聞かぬ日まねく 天離る 鄙にし居れば あしひきの 山のたをりに 立つ雲を よそのみ見つつ 嘆くそら 安けくなくに 思ふそら 苦しきものを 奈呉の海人(あま)の 潜き取るといふ 白玉の 見が欲し御面(みとも) (ただ)(むか)ひ 見む時までは 松柏(まつかへ)の 栄えいまさね 貴き吾()が君 (御面は「みとも」と謂ふ)

意訳:ホトトギスが飛び来て鳴く五月に咲きほこる花橘のように芳しい母上の御言葉を、朝夕に聞かない日々が多くなり、都から離れた鄙であるので、足を引くような険しい山の峰の谷間に遠くから見るように、遠くから嘆いても気持ちも休まらず、お慕いしても心苦しいのに、奈呉の海人が潜って取ると云う真珠のように、見てみたいと思う貴女のお顔を、直に向かい合ってお会いできる時までは、松柏のようにお元気で居て下さい。貴き私の貴女。
◎奈良時代に越中(富山県)に赴任した大伴家持は、国府があった高岡市伏木から見える富山湾(射水市の奈呉の浦)の景観を、春から夏にかけて吹く「あいのかぜ(あゆの風)」を織り込んで詠んでいます。
 20141019日、『世界で最も美しい湾クラブ』に富山湾が加盟することが決まりましたが、富山湾の美しさは、1200年の時空を越えて万葉時代にも通じているのです。富山湾は、日本海最大の外洋性内湾で、表層を流れる暖かい対馬暖流と水深300m以下の一年中2℃前後の冷たい日本海固有水(深層水)により、暖流系と冷水系の両方の魚が生息できる環境になっています。さらに富山湾には、北アルプスの山々から豊富な酸素と栄養分が供給され、美しい景観だけではなく、約500種にものぼる魚が生息する世界でも有数の豊かな海であります。

19-4177:我が背子と手携はりて明けくれば.......(長歌)
標題:四月三日、贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥謌、不勝感舊之意述懐一首并短謌
標訓:四月三日に、越前判官大伴宿祢池主に贈れる霍公鳥(ほととぎす)の謌、舊(ふる)きを感()づる意(こころ)に勝()へずして懐(おもひ)を述べたる一首并せて短謌
原文:和我勢故等 手携而 暁来者 出立向 暮去者 授放見都追 念鴨 見奈疑之山尓 八峯尓波 霞多奈婢伎 谿敝尓波 海石榴花咲 宇良悲 春之過者 霍公鳥 伊也之伎喧奴 獨耳 聞婆不怜毛 君与吾 隔而戀流 利波山 飛超去而 明立者 松之狭枝尓 暮去者 向月而 菖蒲 玉貫麻泥尓 鳴等余米 安寐不令宿 君乎奈夜麻勢
             万葉集 巻19-4177
            作者:大伴家持
よみ:我()が背子と 手携(たづさ)はりて 明けくれば 出で立ち向ひ 夕されば 振り放()け見つつ 思ひ延べ 見()なぎし山に 八()つ峯()には 霞たなびき 谷辺(たにへ)には 椿花咲き うら悲し 春し過ぐれば ほととぎす いやしき鳴きぬ ひとりのみ 聞けばさぶしも 君と我れと 隔(へな)てて恋ふる 砺波山(となみやま) 飛び越え行きて 明()け立たば 松のさ枝に 夕さらば 月に向ひて あやめくさ 玉貫くまでに 鳴き響(とよ)め 安寝(やすい)()しめず 君を悩ませ

意訳:いとしいあなたと手を取り合って、夜が明けると外に出で立って面と向かい、夕方になると遠く振り仰ぎ見ながら、気を晴らし慰めていた山、その山に、峰々には霞がたなびき、谷辺には椿の花が咲き、そして物悲しい春の季節が過ぎると、時鳥がしきりに鳴くようになりました。しかし、たったひとりで聞くのはさびしくてならない。時鳥よ、君と私とのあいだをおし隔てて恋しがらせている、その砺波山を飛び越えて行って、夜が明けそめたなら庭の松のさ枝に止まり、夕方になったら月に立ち向かって、菖蒲を薬玉に通す五月になるまで、鳴き立てて、安らかな眠りにつかせないようにして、君を悩ませるがよい。
◎砺波山(となみやま)は富山・石川県境にある山地です。北方の宝達丘陵と南方の両白山地との間にあり、標高は 200m前後といわれます。越中と加賀を結ぶ通路が開け、倶利伽羅峠は軍事の要衝でもありました。北陸道は尾根沿いに通っていましたが、JR北陸本線、国道8号線は天田峠の下をトンネルで通ります。倶利伽羅県定公園に指定されています。

19-4266:あしひきの八つ峰の上の栂の木の.......(長歌)
標題:為應詔儲作謌一首并短謌
標訓:詔(みことのり)に応じるために儲(あらか)じめ作れる謌一首并せて短謌
原文:安之比奇能 八峯能宇倍能 都我能木能 伊也継々尓 松根能 絶事奈久 青丹余志 奈良能京師尓 万代尓 國所知等 安美知之 吾大皇乃 神奈我良 於母保之賣志弖 豊宴 見為今日者 毛能乃布能 八十伴雄能 嶋山尓 安可流橘 宇受尓指 紐解放而 千年保伎 伎吉等餘毛之 恵良々々尓 仕奉乎 見之貴者
             万葉集 巻19-4266
           作者:大伴家持
よみ:あしひきの 八峯(やつを)の上の 樛(つが)の木の いや継々(つぎつぎ)に 松し根の 絶ゆることなく あをによし 奈良の都に 万代(よろづよ)に 国知らさむと やすみしし 吾()が大皇(おほきみ)の 神ながら 思ほしめして 豊(とよ)し宴(ほあかり) ()す今日(けふ)は 物部(もののふ)の 八十(やそ)(とも)の男()の 島山に 明(あか)る橘 うずに刺し 紐解き放けて 千年(ちとせ)寿()き 寿()き響(とよ)もし ゑらゑらに 仕へまつるを 見るが貴さ

意訳:足を引く険しいたくさんの峰の頂に生える樛の木、その言葉のひびきではないが、一層に継ぎ継ぎに、松の根のように絶えることなく、青葉が照り輝く奈良の都は、万代に国を統治されると、平穏に治められる吾等の先の天皇は、神でありながら、民を慰撫されて、立派な宴を披きご覧になる今日は、朝廷に仕えるたくさんの男たちの、庭園にある光り輝く橘を髪飾りに刺し、上着の紐を解きくつろいで、千年を寿ぎ、寿ぎ歌や楽曲を響かせて、皆が笑顔で御奉仕するのを、このように眺めることは貴いことです。
19-4271:松蔭の清き浜辺に玉敷かば君来まさむか清き浜辺に

◎原文の「君伎麻佐牟可」の「君」は聖武太上天皇を指します。表記で「太上天皇」に対して漢文的な「君」の用字を使った特別な事例です。
※藤原八束(ふじわらのやつか、715766年)
 霊亀(れいき)元年生まれです。北家藤原房前(ふささき)の3男です。母は牟漏(むろの)女王。天平20(748)参議となり、大宰帥(だざいのそち)、中務卿などを歴任しました。正三位,大納言兼式部卿にすすみました。初め八束といいましたが、天平宝字4(760)年ごろ真楯の名を賜ったといいます。公平で度量広く、十分大臣の重責に耐える人物と評され、聖武天皇から寵遇を受けたといいます。和歌が「万葉集」に8首はいっています。天平神護(じんご)2年3月12日死去。52歳でした。

ウェブニュースより
【スノボハーフパイプ】平野歩夢、大逆転金の裏に「2回目の得点納得いかず、怒りを最後に表現」 ―― <北京オリンピック(五輪):スノーボード>◇男子ハーフパイプ(HP)決勝◇11日◇雲頂スキー公園
 2大会連続銀メダルの平野歩夢(TOKIOインカラミ)が悲願の金メダルに輝いた。1回目から超大技トリプルコーク1440(斜め軸に縦3回転、横4回転)を成功させた平野歩は3回目で96.00をマーク。逆転で初優勝を果たした。2位はスコット・ジェームズ(27=オーストラリア)だった。

 怒りが大逆転の力となった。決勝2回目にトリプルコーク1440を決めるなど、最高難度のトリックを連発したが、得点は91.752位。首位のジェームズの92.50に及ばなかった。だが最終演技者となった3回目。2回目と同じルーティン(フロントサイドトリプルコーク1440-キャブダブルコーク1440-フロントサイドダブルコーク1260-バックサイドダブルコーク1260-フロントサイドダブルコーク1440)に再び挑み、それを完璧にこなした。96.00で大逆転での金メダルとなった。

 平野歩は「夢が一つかなった。ここを取らずには終われなかった。ずっとやってきたことをここで出し切れた」と話した。続けて「2回目の得点には納得いかなかった。その怒りをうまく最後に表現できた」と胸を張った。
◆トルプルコーク1440 斜め軸に縦3回転、横4回転する大技。技名にある「トリプル」は縦に3回転することを指す。「コーク」とはコルクスクリューの略で、コルク用の栓抜きのように、らせん状に渦を巻く回転形式であることに由来。1440は回転数(360×4)を意味する。昨年12月のデュー・ツアーで、平野歩夢が公式戦では世界で初めて成功させた。    [日刊スポーツ 20222111247]


 

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くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
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